デジタル化の進む現代にあって、決して同じものが二度とは書けない、というアナログならではの面白さが評価され、人の手による文字は、その活躍の場を大きく広げています。
最近は、新聞や老舗デパートだけでなく、食品や飲料、飲食店や旅館の看板、さらにはTシャツやキャップなどのファッション、インテリア、テレビ番組のタイトル、CDやDVDなど、あらゆる場所に筆文字が見られるようになってきました。「手作り感」「信頼感」「温かさ・優しさ」「伝統・日本らしさ」「オリジナリティ」といったものを表現するのに、筆文字が重宝がられていることの表れだと思います。
但し、それを正しく、そして的確に伝えるためには、単に手書きであれば何でもいい、ということではありません。アナログというのは、時に乱暴であったり粗雑であったり、軽々しく見えるというリスクも持ちます。オーナー社長さんが、自己満足で書いた筆文字看板のお店が次々と姿を消すのには、ちゃんと理由があります。デジタルでないからこそ、さらに時間と手間をかけて最も相応しいものを作る必要があります。
私のところにも、いろんな業界の方から筆文字の相談がきます。私が頼まれもしないのにたくさんの文字をご提供するのは、おそらく、本当に大事なことを伝えるためには「悩むこと」が大事だと思っているからです。なので、「どの字にしよう・・・」と本当に皆さんさんざん悩まれるのですが、それが私の小さな楽しみでもあります(笑)。
ここでは、いくつかの実際の例をもとに、同じ文字に何十通りものパターンがあることをお見せします。「書道」というと堅苦しいですが、流派や流儀に関係なく、筆文字の世界は今日もいきいきとその領域を広げています。