第36回 世の中のために与えられた「ギフト」
2013/11/18
最近お手伝いしたものに、ある社団法人のロゴがあります。
http://gakusya.org/
その名も「社会人材学舎」。まさに、能力ある人材の学び舎を作ろう、という創設メンバーたちの熱い思いが込められた法人名です。漢字ばかりだけれどあまり堅苦しくてもいけない、でも遊びじゃない、真剣に、でもいきいきと、前向きに躍動する気持ちが表現できれば、と思って書きました。同時に、文字そのものから「人」がイメージできたら、と考えて少し動きを加えたこの文字がめでたく採用となりました。力を込めたり、あるいはじっと考えたり歩き出したり、背伸びをしたり大笑いしたり・・・。一文字一文字の中に、そんな人間らしさが表現できていたら嬉しいです。
この法人の野望については、世間でもつとに有名な、代表理事のお二人の対談にお任せしましょう。
※代表理事/弁護士・伊藤真先生、明大大学院教授・野田稔先生
「私たちは皆、生まれながらに何らかの「能力」を持っています。それは、いわば天から与えられた“ギフト”。でも、そのギフトを思う存分に活かしているでしょうか?自分のためだけに活かしてはいないでしょうか?そのギフトは本来、世の中に貢献するために与えられているのだと思うのです。とは言え、どんなに優秀な人材でも、大海原に何の準備も助けもなく飛び込むことは無謀。私たちは、そうした世の中を創る、一助となりたい。チャレンジしようとする社会人材をサポートするブイの一つとして、必要な学びの場を提供し、自分の殻を破り対応力を身につけ、そして新たな活躍の場を見つけるための道標を提供、時には投資という資金援助も行う。人材のリストラではなく、人材を活かし、動かすことで社会のリストラクチャリングを推進する。大企業からベンチャー企業へ、NPOやNGO等の団体へ、或いは農業や介護の現場へ。社会人学舎は、自分を磨き、自分を活かす道を見つける場です。」
第35回 和太鼓にはやっぱり筆文字が似合う
2013/08/06
ご覧の通り、これはある学校の「和太鼓部」のオリジナルTシャツ。部員のみんなで考えた「こんなTシャツが欲しい!!」という画コンテを受け取り、ボランティアでお手伝いすることにしました。最近は和太鼓ブームとあって、あちこちで演奏会(演舞会)が開かれるようになりました。ずいぶんポップなものから、何だかおどろおどろしいものまでデザインは様々ですが、この学校のみんなは、正統派の筆文字を選んだようです。
学校や部の名前は、一見するとオーソドクスな教科書体のように見えますが、元気な部員を連想させるよう、特定の線をあえて長く引いたり、連綿を大袈裟に表現したり、という工夫を入れています。真面目なんだけど明るくて伸びやかな雰囲気を出すためです。明るくポップにするために、ありもののフォントを使っている例をよく見かけますが、どう工夫しても見栄えが安っぽくなってしまうのが悩ましいところです。
文字だけでは動きがないので、和太鼓を叩く部員をイメージした墨絵を添えました。こういう時、筆の線というのは躍動感や溌剌感がよく出るので便利です。これを着て太鼓を叩くみんなの姿を一刻も早く見てみたいと思います。
第34回 「Bon Voyage!」・・・筆文字でアルファベット
2013/07/04
筆文字というのは、古来から縦書きの文字として書かれてきました。中国、日本、韓国、モンゴル・・・そもそも縦書きの文字文化を持つ国は決して多くありませんから、国際化に応じてカタカナ、英語、フランス語などの横文字を筆で書こうとすると、いわゆる「お手本」と呼ばれるような古筆がほとんどありません。いくら高名な先生にお願いしても、「・・・?」と返す言葉に困ってしまうような、イケてないものが出てきてしまうことが多いのはそのせいです。
縦書きの場合の基本線は、文字の中心にあります。横書きの場合は、その基本線が下線に移ります。つまり、バランスの取り方そのものが違うんですね。その違いを憶えれば、今までよりはずっと書きやすくなります。
今回お手伝いしたのは、美人シャンソン歌手・劉玉瑛さんの1stアルバム「Bon Voyage!」のタイトル文字。日本語に訳せば、「良い旅を!」「いってらっしゃい!」といった意味になります。本人の声が聞こえてくるような、シズル感のあるものにしたいと考えて、このフランス語を筆文字で書いてみました。起筆や終筆、止めやはらい、といった「お習字」で学ぶことはすべて無視しての運筆です。歌詞カードのタイトルもすべて横書き。さて、果たしてポップな明るさと楽しさが、筆文字で表現できているでしょうか・・・。
第33回 ジュースに筆文字、100%手作りの証
2013/06/13
愛媛県のある農家さんからのご依頼で、絞りたてジュースのラベルをお手伝いしています。「はれひめ」「はるか」「不知火」「ブラッドオレンジ」・・・これはみんな柑橘系の果物の名前。完熟した実をそのまま絞った100%ジュースは、一口飲んだだけでその滋味深さが伝わってきます。太陽の恵みが身体にすーっと染み透っていくような、そんな感じがします。
お茶 = 筆文字、のイメージが強い反面、ジュースといえばそのタイトルやパッケージのほとんどには、横書きのカタカナや英語が使われています。原材料に横文字のものが多かったり、子供や若者をメインターゲットにしているせいかもしれませんが、今回のジュースにはあえて縦書きの筆文字を使ってみました。
するとどうでしょう、農家の方のひたむきな果実作り、絞りたて100%の純粋さ、限定販売の希少品、といった商品の個性が自然に表現されているような、そんな感じがしました。実際、生産するやあっという間に売切れてしまう人気に。商品の力を活かすデザインの重要性に、改めて気付かされた出来事でした。
第32回 ここでも人気のオリジナルギフト
2013/05/22
今年も、サークルkサンクスさんの「母の日・父の日ギフト」のパンフレットのお手伝いをしました。いままではずっと筆文字でしたが、今回は筆をペンに持ち替えて、表紙だけでなく、各コーナーごとに手書き風の文字を提供しています。
そんな中で最近増えているのが、名入れギフト。文字通り、商品のパッケージやデザインにお母さんやお父さんの名前を入れたもの。2年ほど前から私も「父の日・焼酎ギフト」のコーナーで、甕焼酎の名入れを担当しています。
私の場合は印刷ではなく、まさに一点ずつ書き下ろすので時間はかかりますが、依頼者の方々の気持ちを大切にお預かりして、丁寧に書かせて頂いています。中にはお名前だけでなく、「お父さん大好き!」や「パパLOVE」「祝☆定年」といった温かいメッセージもあって、書いている私の方まで癒されています。モノからココロへ。こんなところにも時代の変化が顕れているのかもしれません。
第31回 謹んで新年のお慶びを申し上げます。
2013/01/01
ご存知のように昨年の漢字は、「金」でした。
何となく、久しぶりにパッと明るい漢字が選ばれた気がしますが、毎年この「今年の一字」を見ていると、漢字選びの難しさを感じます。95年の第1回から振り返ってみると、「震」「食」「倒」「毒」「末」「金」「戦」「帰」「虎」「災」「愛」「命」「偽」「変」「新」「暑」「絆」、となります。「明」vs「暗」でいうと、6勝9敗2引き分け、という感じでしょうか。
その年の出来事を振り返ると、どうしても事件とか事故とか自然災害とか有名人の逝去とか、どちらかというと暗いニュースが目立つような気がします。その方がニュース性が高い、ということなのかもしれませんが、暗い言葉の方が具体的なイメージを漢字一文字で表しやすい、という特徴もありそうです。
そんな中では、昨年の「絆」はちょっと今までと違う印象を受けました。象徴的な出来事やニュースにまつわるものではなく、大切なもの、大事にしなければいけないもの、忘れてはならないもの、そんな想いが託された一文字でした。そう思って振り返れば、私の漢字は「時」「創」「想」「縁」・・・。やがていつか、こんな言葉が並ぶ時代になったらいいなぁ、とふと思った年明けでした。
この一年が、皆さまにとって本当に素晴らしい年になりますように。
「筆文字散歩」の軌跡(2012年)はこちら