第25回展記念作品「いつか何処かで」
日常生活の中で見かける筆文字たちを集めた作品です。右は1989年、ぴあに入社する直前の卒業記念に書いたもの。中央はそれから15年後、2004年の作品。そして一番左が、それからさらに10年後の今年に書いたものです。比べてみると、減ったものは金融系の社名や標語、増えたのは蕎麦屋と焼酎とゲーム・コミック。時代を超えて支持されるもの、時の流れと共に移ろうもの、そして消えゆくもの、文字の持つ個性の強さを改めて感じてみてください。
(新作表装/青玄)
臨・富岡鉄斎『漁夫快酔図』
獲魚換酒先須酔
明日愁来明日愁
毎年「北斎」を臨書してきたのですが、たまには趣向を変えて・・・ということで、今回は「鉄斎」です。これは、大正九年、鉄斎八十五歳の作品。病床に伏す知人のお見舞いに、と鉄斎が贈ったもの。見ているだけで元気が出てくるような豪快さです。詩の意味は、「魚を獲ってそれを酒に換えたので、まずは一杯やって酔おうじゃないか。明日の心配は明日すればよいさ。」
(和紙/小津和紙・丸和紙 表装/青玄)
臨 「筋切」
しほの山 さしでのいそに すむちどり
きみがみよをば やちよとぞなく
わがよはゐ きみがやちよに とりそへて
とどめおきてば おもひでにせよ
遍照僧正に七十の賀せさせ給(たまふ)とて 仁和帝
かくしつつ とにもかくにも ながらへて
きみがやそぢに あふよしもがな
「筋切」は、古今和歌集の写本の断簡で、ここは巻七「賀歌」の一部にあたります。教本の解説によれば、この一葉は藤原定実が筆者と思われ、地紋が濃いせいか、他の筋切よりも筆洗が太く。墨付きもたっぷりとしていて流麗な味わいがあります。実際にはタテに銀の筋が入っており、そのことから「筋切」と呼ばれるようになったと言われています。懐紙には唐長の和紙を使いました。
(和紙/唐長 表装/青玄)
創作「壁ドン(犬バージョン)」
最近流行りの「壁ドン」は、背の高い男がやるからカッコいいのであります。僕のような低身長男子が、壁ドンしながら相手を見上げて・・・というのは相当にイケてないよなぁ、と思っていたら、我が家の小太り犬シローと目が合いました。こいつが近所の可愛いメス犬ちゃんに壁ドン、を想像したらちょっと可笑しくなりました。犬の目線でご覧ください。
☆★☆謎解きゲーム☆★☆
本日の指令⇒「星の名前を導け」
一去今来再
一昨今明々
一枚の紙に書かれた、謎の漢詩。一度去りしものが今、再び現れる。一度過ぎ去ったものが、今また目の前に輝く。「来」と「明」を結ぶ先に見えてくるものとは、果たして? さて、この作品が示している「星の名前」とは一体何でしょうか。会場での正解率は5%でした。
(表装/青玄)
暖簾「もったいない」(上祖師谷)
成城学園駅からタクシーで五分ほどの住宅街の一角に、この店はひっそりと佇んでいます。。看板には「新鮮魚菜料理」。それもそのはず、その昔は鮮魚店を営み、以前は三軒茶屋で割烹料理店を切り盛りしていたおかみさんが、人と時間と食材をもっと大事に・・・と居を移したのが、店名「もったいない」の謂れです。
アートディレクター・吉野修平氏からの依頼で、今回は暖簾を新調しました。お店はアパートの一階を改装した、文字通りアットホームな居住まい。カウンターに並ぶのは、おかみさん手作りの果実酒の壷。具にも麺にもこだわりぬいた〆の一品「烏骨鳥スープラーメン」は、思い出しただけで唾が止まらない旨さ。知る人ぞ知る、の意味を満喫できる一軒です。お近くの方はぜひ。
※世田谷区上祖師谷四4-32-2-101 03(5384)6306
劇団扉座公演『つか版・忠臣蔵リターンズ』
劇団扉座の主宰・横内さんは早大文学部の4期先輩。デザイナーの吉野さんはぴあの編集部時代にとてもお世話になった方。不思議な縁に結ばれて、扉座の公演ではいつも筆文字のタイトルをお手伝いさせて頂いています。『つか版・・・』はご存知、つかこうへい氏の代表作の横内版。舞台を観た幻冬舎の見城社長が絶賛し、2014年3月にはなんと3度目の再演が実現! 吉野さんの粋な計らいで、3回とも違う筆文字を使って頂きました。
(協力/劇団扉座 イラスト/溝口イタル アートディレクション/吉野修平)
京都丹後・特別栽培米こしひかり『喜左衛門』
ニュースキャスターの宮川俊二さんからのご紹介で、天橋立で知られる京都・丹後の農家「京都祐喜」の香山喜典さんが作るお米のブランド『歌人』の筆文字をお手伝いしました。『喜左衛門』は、そのご縁で書いた京都限定の新ブランドです。産地の与謝野町は、まさに蕪村や鉄幹、晶子で知られる「歌人」たちにゆかりの地なのです。このお米は、3年連続で「特A」の評価を得た一級品。筆文字から、歴史と伝統の深みや信頼感などが伝われば、と思って私も筆を持ちました。お米とともに、滋味深い京野菜も通販でお取り寄せ頂けます。
(協力/京都祐喜株式会社)
創作 日本酒『昇り調子』
鶏料理で有名な「てけてけ」の寺口さんからの依頼で、オリジナルブランドの日本酒ラベルをお手伝いしました。作り手たちの情熱に恥じない、勢いと深みのある文字をご提供したい、そう思って徹夜で書いたのがこの文字です。昨年は間に合いませんでしたが、今年は祭ばやし展のために一本、プレゼントして頂きました。土曜日のパーティでは、この幻の酒を皆様に楽しんで頂きました☆
(協力/「てけてけ」)
工藤直子の詩『ひなたぼっこ』/『おやすみ』
詩人で童話作家でもある工藤直子さんの詩です。自然を歌った詩なので、アダンを使った、素材そのままのの筆で書きました。被写体になりきって書く、というのが彼女の詩の世界観。そうすると、見えなかったものが見えてくるのです。
(表装/青玄)
創作「ひまわり」(中村あゆみ作詞)
昨年の書展で、大好きな友人から、大切なご主人を亡くされたことを聞きました。まだ30代半ばの若さ、それも小さなお子さんを残しての他界は、さぞかし無念なことであったろうと察しますが、妻である友人への確かな愛が残されたことが、せめてもの救いでした。そして今年、祭ばやし展にも毎回のように観に来て下さった、大学書道連盟の先輩が、一年半に及ぶ闘病の末に鬼籍に入られました。明るくて大らかで、本当にひまわりのような人でした。彼もまた死を前にして、大学時代からの伴侶である奥様と、最後の旅行をゆっくりと楽しまれたそうです。そんな折にお会いしたヴォーカリストの中村あゆみさんは、「翼の折れたエンジェル」をはじめとして、80年代のヒットシーンを席巻した方で、なんと私たちと同い年。今回、彼女の新作アルバムの中から、この「ひまわり」を作品にさせて頂くことにしました。残されたご家族の皆さんに、誰よりも幸多からんことを、心からお祈りしています。
(協力/中村あゆみ 表装/青玄)
切り文字『ツヨク想う』(絢香)より
「切り文字」というのは、25五年前の第1回展の際、たまたま思いついて始めた技法で、その名も私が勝手につけたもの。作り方をよく聞かれるので、簡単にご説明します。
①半紙に筆で歌詞を書きます。
②この半紙を写真にかぶせ、文字の輪郭にカッターナイフを入れていきます。
③写真の一番表面のフィルム部分だけを、丁寧に薄く剥ぎ取っていきます。
④白い文字が浮き立って見えてきます。
特許も何も申請していないので、最近ではあちこちでこの手法を使った習作が見られるようになりました。毎年、旅をテーマに詩を選び、息子の写真に文字を刻んで残しています。今年の歌詞は絢香の名曲から選びました。
創作「李白酔図」
ちょっと変わった金網のフレームに、酔って寝込む李白を閉じ込めてみました。型にはまらない、小さなインテリアの完成です。たくさんの素材、画材の中から、予定調和でない偶然のコラボレーションが見つかり、そこに新しいものが生まれる。この瞬間がまた、たまらなく楽しいのです。
創作 「貝がらの夢」
書・小林 覚 布染・小林かおり
赤い小箱の 貝がらは 海にわかれて 人の家へ
知らぬ月日が たったけど 今にわすれぬ 浪の音
誰もこいしい ふるさとの 浪もきかねば 磯も見ず
赤い小箱は 貝がらの 夜ごとの夢に 濡れるだろ
一昨年のちょうど今頃、小さいころから可愛がってくれた叔母が鬼籍に入りました。控えめながらいつも微笑みを絶やさず、常に細かな気配りを忘れぬ優しい人でした。自宅の客間に、彼女の手によるこの詩の作品が残されており、同じ詩を私も作品にして墓前に供しました。これは、自家染色の布を使った掛け軸バージョンです。あれからもう2年。皆さんの家でも、小箱に入った小さな貝がらが、どこか引き出しの奥で小さな涙を流していませんか。
(軸装/青玄)
創作「夏の虫」
画・小林 想 / 書・小林 覚 / 一文字染・小林かおり
書道会の合宿は毎年、夏の山で開催されます。これは昨年の夏合宿、塩沢のホテルで書いたもの。何種類ものトンボをたくさん捕まえ、バッタを追い、旅館の女将さんからカブトムシとクワガタをプレゼントされて帰ってきました。夏休みはやっぱり、こうでなくちゃ。
(表装/青玄)
大相撲本場所・モンゴル国総理大臣賞表彰状
縁あって、モンゴル国駐日大使より、大相撲の本場所で優勝力士に授与される「モンゴル国総理大臣賞」の表彰状のお手伝いを依頼されました。優勝力士に恥じぬよう、パソコンのフォントではなく、人の書いた文字がいい、というのが大使の希望でした。実はあまり知られていませんが、ロシア語に由来する現在のキリル文字が公用字になる以前、モンゴル文字は日本語や中国語と同様、縦書きの書体でした。この伝統的な文字を受け継ごうと、最近では小学校の教科書にも多く使われるようになってきたそうです。次の場所からは、このモンゴル文字も表彰状に加わる予定です。
公演タイトル『野村萬 芸道傘寿記念』
細々と書を続けてきたことへの最大のご褒美を頂いたとすれば、人間国宝の能楽師・野村萬先生との出会いでありました。その記念公演にあたり、先生は若輩者の私に、筆文字を書く機会を授けて下さいました。人間国宝7人が競演する、それはそれは豪華な舞台でした。風姿花伝によれば、「個々の利害を超え、『見聞心(けん・もん・しん)』の原点に経ち帰ることが、実演芸術の未来を切り開く道であろう」とのこと。未熟者の私はまだまだ技を磨かなければなりませんが、『見聞心』を意識して、一つでも多くのことを先生から学びたいと思っています。
イロモノシリーズ「ツンデレBOX⑤」
書・小林 覚 / イラスト・長場玲代
今年でついに第5弾。イラストはもちろん、早大書道会の後輩で、萌え系イラストの「神」である長場玲代さん。今年は25年の歳月がテーマ。表はツン、扉を開けると、中には25年後のあのコが・・・。扉を開いてお楽しみ頂く趣向となっています。
(イラスト/長場玲代 製作協力/豊川美樹)
大好評?! 回文シリーズ
たくさんの方から、「今年も回文が一番よかった☆」「来年も回文が楽しみ♪」という、嬉しいのか悲しいのかわからない称賛を頂き、またまた新作の発表です。これまでの人気回文は展覧会にてご紹介しています。皆さんも傑作ができましたらぜひお知らせ下さい。来年の作品に採用させて頂きます。
(台板/小林家で長い間、愛用してきたまな板)
創作「在」
書・小林 覚 布染・小林かおり
2014年は腎臓の持病の関係で、一週間の入院を経験しました。腎臓がここにあるのだ、そして、物言わぬこの臓器のお陰で生きているのだ、というのを自覚させられた一週間でした。普段意識していないこと、見えていないものにこそ、大事な意味があるのかもしれません。大切に生きます。
(表装/青玄)
重ね絵「能登仁行」
スケッチブックとは別に、印象に残った風景を墨絵にしています。といっても単なる墨絵ではなく、横から見て頂ければおわかりのように、奥行きを表現するため、実際に何枚も紙を重ねています。本当に1ミリか2ミリでも、紙の厚さによって深い遠近が感じられるのが不思議です。風景は能登半島の山の中にある、仁行という土地。煙突から煙の出ている右手の建物が、仁行和紙の工房です。ここの紙は本当に大好きで、何度も作品に使っています。